JAJOUKA HISTORY
モロッコ北部に位置する村、ジャジューカ。
ここには、独特な伝統音楽が息づいており、「Master Musicians of Joujouka」を名乗る集団が、連綿とその音楽を引き継いでいる……
ということをご存知の人も少なくないでしょう。
その音楽が、欧米の音楽シーンに知れ渡るようになった一連の流れを、個々のアルバムをたどりつつ紹介します。
時系列としては、やはりこれが
ファースト・インパクトになるでしょう。
それ以前に、ビート世代のアーティスト、
ブライオン・ガイシンをきっかけに
ウィリアム・バロウズや
ポール・ボウルズがモロッコにハマり、ジャジューカ音楽に触れていたのは確かなのですが。
ローリング・ストーンズのメンバーだった
ブライアン・ジョーンズも、ブライオン・ガイシンの紹介で1968年にジャジューカ村に録音に赴き、このアルバムを製作しました。
しかし、翌69年にブライアン・ジョーンズは不慮の死を遂げ、ようやくこのアルバムがリリースされたのは71年。
しかも、ローリング・ストーンズの自主レーベルよりのリリースだったため、きわめて品薄な状態が続き、一時は完全に
幻のアルバムと言われていました(95年に公式にCD再発)。
そして次にシーンに投じられたのが、このアルバム。
前記したブライアン・ジョーンズのアルバムがリリースされ、ジャジューカ音楽が急激に注目された渦中で、現地にしばしば出向いていた
Joel & Mark Rubinerの兄弟がジャジューカ音楽を
より正しく記録することを目指して72年に録音、製作したもの(ブライアン・ジョーンズのアルバムはエコー処理やテープ編集が施され、純粋なジャジューカ音楽の記録とは呼び難いところもあった)。
こちらも95年に公式CD再発。
そして、
オーネット・コールマンによる
フリージャズの怪作。このアルバムの3曲目、"Midnight Sunrise"(この曲のみ、73年の録音)はMaster Musicians of Joujoukaとオーネットとの共演。オーネットが自ら(バロウズらの口利きもあったらしいが)ジャジューカ村を訪れ、年に一度の牧羊神の祭で行った演奏だそうです。
この後、The Master Musicians of Joujoukaに大きな変革のきっかけが訪れます。
82年に、リーダーであったアブサラーム・アッタールが亡くなり、その息子たちのひとりであるバシール・アッタールがリーダーの座を継いだのです。
ちなみにこのバシール氏、ブライアン・ジョーンズが録音に訪れた頃はまだ子どもで、ブライアンに可愛がられていた、などという逸話もあることからして、リーダー襲名(?)当時はまだ20代そこそこの非常に若きリーダーであったはず。
しかし、彼はジャジューカ音楽をより世界に知らしめるために努力を重ね、奔走し、斬新なコラボレーションを次々に実現させていくことになります。
この
ストーンズのアルバムには"Continental Drift"の1曲のみ、The Master Musicians of Joujoukaが参加しています。
上記したブライアン・ジョーンズの
モロッコ録音から20年という企画意図もあったそうですが。
このアルバムでは、バシール・アッタールが単身ニューヨークを訪れ、フリー系ギタリストの
エリオット・シャープとの共演を果たしています。シャープの繰り出すギターと打ち込みビート・シークェンスに伝統楽器の音色が絡みつく、異種格闘技の真剣勝負。
ハービー・ハンコックの
"Rock It"の大ヒットでヒップホップ・カルチャーに市民権を与え、フリージャズからノイズパンク、ワールドミュージック系まで貪欲に手がける鬼才プロデューサー/ベーシスト、
ビル・ラズウェルが自ら主宰するレーベル"AXIOM"からリリースしたアルバム。
このアルバムでは、ラズウェルはジャジューカ村にAKAIの
12トラックデジタルマルチレコーダーを持ち込み、現地録音の自由闊達さとスタジオレコーディング並みの音のセパレーションを両立させるという離れ業を実現させました。
Master Musicians of Jajouka のリーダー、バシール・アッタール初のソロ名義アルバム。
プロデュースを上記のビル・ラズウェルが手がけ、
アフリカ人パーカッショニスト・アイーブ・ディエンや
JB'sのメイシオ・パーカーとの共演という異種格闘技を繰り広げています。
これもまた、上記のAXIOMレーベルよりリリースされたもの。同レーベルより既発の音源を
アンビエントミックスしたトラックをコンパイルした2枚組。
"Apocalypse Across The Sky" 音源からのアンビエントミックスも収録されてます。
このアルバムは、
ピーター・ガブリエル主宰のREALWORLDのサブレーベル、Womad Selectよりリリースされたもの。
イギリスのREALWORLD STUDIOで録音され、敏腕プロデューサー/エンジニアである
チャド・ブレイクの手により、実に精緻なミックスが施されています。
ベルギーのSub Rosaレーベルよりリリースされた、
モロッコ音楽のコンピレーションアルバム。
The Master Musicians of Joujouka と、Gnoua Brotherhood of Marrakesh の演奏を収録。
Sub Rosaレーベルよりリリースされた、
ビート・ジェネレーションへの2枚組トリビュート・アルバム。
"CD1 : BEATS"では
Bomb The Bass,
Scanner,
Material,
Divinationらがダンスミュージック世代からのオマージュとして曲を提供、"CD2 : BEAT"では当時のビート世代の面々(バロウズ、ポール・ボウルズ、ブライオン・ガイシン等)の様々なパフォーマンスが収録されています。
そこにはThe Master Musicians of Joujoukaの演奏も含まれており、
Joujoukaの演奏をバックにした
マリアンヌ・フェイスフルのポエトリー・リーディングなんて激レアなトラックも。
UKエイジアンのタブラ演奏者/DJである
タルヴィン・シンがバシール・アッタール率いるMaster Musicians of Jajouka と共演を果たしたアルバム。この作品、邦題として
「邪呪歌(じゃじゅか)
」というタイトルがついてましたね(笑)
ジェニファー・ロペス主演のサイコSFサスペンス(?)、「
The Cell」のサウンドトラックはハワード・ショアが担当。バシール・アッタール率いるMaster Musicians of Jajoukaをフィーチャーし、
ロンドン交響楽団との共演という空前絶後の音楽を作り上げています。
ベルギー、Sub Rosaレーベルよりのリリース。96年から98年にかけて、Boujeloudと呼ばれる牧羊神を祀る伝統儀礼での演奏を録音したもの。
侘び寂びをも感じさせるような、飄々とした演奏。
こちらは、バシール・アッタール率いる
Master Musicians of Jajoukaによる、2007年
リスボンでのライブ公演の模様を収録したアルバム。
大勢の観客を狂熱に叩き込むべく、トランス感あふれる力強い演奏。
The Master Musicians of Jajouka自身の自主レーベルよりのリリース。
Vol.1と銘打っているということは、Vol.2以降も期待できるのでしょうか。
(
MP3音源もリリース)
こちらも、バシール・アッタール率いる
Master Musicians of Jajoukaによるアルバム。
バシールの
自宅での録音。
伝統儀礼音楽としてのジャジューカに原点回帰したような、
100%ストレートなジャジューカ音楽。
(
MP3音源もリリース)
目下のところは、以上でしょうか。
この、「4000年の歴史を持つロックンロール(by ウィリアム・バロウズ)」とも言われる音楽を、今後も聴き続けることができることを願いつつ. . . .