JAJOUKA HISTORY

モロッコ北部に位置する村、ジャジューカ。
ここには、独特な伝統音楽が息づいており、「Master Musicians of Joujouka」を名乗る集団が、連綿とその音楽を引き継いでいる……

ということをご存知の人も少なくないでしょう。
その音楽が、欧米の音楽シーンに知れ渡るようになった一連の流れを、個々のアルバムをたどりつつ紹介します。

Brian Jones Presents : The Pipes of Pan at Jajouka ('71)

the pipes of pan at jajouka
時系列としては、やはりこれがファースト・インパクトになるでしょう。
それ以前に、ビート世代のアーティスト、 ブライオン・ガイシンをきっかけに ウィリアム・バロウズポール・ボウルズがモロッコにハマり、ジャジューカ音楽に触れていたのは確かなのですが。
ローリング・ストーンズのメンバーだったブライアン・ジョーンズも、ブライオン・ガイシンの紹介で1968年にジャジューカ村に録音に赴き、このアルバムを製作しました。
しかし、翌69年にブライアン・ジョーンズは不慮の死を遂げ、ようやくこのアルバムがリリースされたのは71年。
しかも、ローリング・ストーンズの自主レーベルよりのリリースだったため、きわめて品薄な状態が続き、一時は完全に幻のアルバムと言われていました(95年に公式にCD再発)。

The Master Musicians of Jajouka ('74)

the master musicians of jajouka
そして次にシーンに投じられたのが、このアルバム。
前記したブライアン・ジョーンズのアルバムがリリースされ、ジャジューカ音楽が急激に注目された渦中で、現地にしばしば出向いていたJoel & Mark Rubinerの兄弟がジャジューカ音楽をより正しく記録することを目指して72年に録音、製作したもの(ブライアン・ジョーンズのアルバムはエコー処理やテープ編集が施され、純粋なジャジューカ音楽の記録とは呼び難いところもあった)。
こちらも95年に公式CD再発。

Dancing in Your Head / Ornette Coleman ('77)

dancing in your head
そして、 オーネット・コールマンによるフリージャズの怪作。このアルバムの3曲目、"Midnight Sunrise"(この曲のみ、73年の録音)はMaster Musicians of Joujoukaとオーネットとの共演。オーネットが自ら(バロウズらの口利きもあったらしいが)ジャジューカ村を訪れ、年に一度の牧羊神の祭で行った演奏だそうです。

この後、The Master Musicians of Joujoukaに大きな変革のきっかけが訪れます。
82年に、リーダーであったアブサラーム・アッタールが亡くなり、その息子たちのひとりであるバシール・アッタールがリーダーの座を継いだのです。
ちなみにこのバシール氏、ブライアン・ジョーンズが録音に訪れた頃はまだ子どもで、ブライアンに可愛がられていた、などという逸話もあることからして、リーダー襲名(?)当時はまだ20代そこそこの非常に若きリーダーであったはず。
しかし、彼はジャジューカ音楽をより世界に知らしめるために努力を重ね、奔走し、斬新なコラボレーションを次々に実現させていくことになります。

Steel Wheels / The Rolling Stones ('89)

steel wheels
この ストーンズのアルバムには"Continental Drift"の1曲のみ、The Master Musicians of Joujoukaが参加しています。
上記したブライアン・ジョーンズのモロッコ録音から20年という企画意図もあったそうですが。

In New York / Bachir Attar, Elliott Sharp ('90)

in new york
このアルバムでは、バシール・アッタールが単身ニューヨークを訪れ、フリー系ギタリストの エリオット・シャープとの共演を果たしています。シャープの繰り出すギターと打ち込みビート・シークェンスに伝統楽器の音色が絡みつく、異種格闘技の真剣勝負。

Naked Lunch : Music From The Original Soundtracks ('92)

naked lunch
ウィリアム・バロウズの代表作 「裸のランチ」デヴィッド・クローネンバーグ監督が映画化した奇作「裸のランチ」。音楽はハワード・ショアが担当し、演奏にはオーネット・コールマンを起用。上記したコールマンとJoujoukaとの共演トラック "Midnight Sunrise"の音も、このサウンドトラックにはサンプリングされてます。

Apocalypse Across the Sky / The Master Musicians of Jajouka feat. Bachir Attar ('92)

apocalypse across the sky
ハービー・ハンコック"Rock It"の大ヒットでヒップホップ・カルチャーに市民権を与え、フリージャズからノイズパンク、ワールドミュージック系まで貪欲に手がける鬼才プロデューサー/ベーシスト、 ビル・ラズウェルが自ら主宰するレーベル"AXIOM"からリリースしたアルバム。
このアルバムでは、ラズウェルはジャジューカ村にAKAIの12トラックデジタルマルチレコーダーを持ち込み、現地録音の自由闊達さとスタジオレコーディング並みの音のセパレーションを両立させるという離れ業を実現させました。

The Next Dream / Bachir Attar ('92)

next dream
Master Musicians of Jajouka のリーダー、バシール・アッタール初のソロ名義アルバム。
プロデュースを上記のビル・ラズウェルが手がけ、アフリカ人パーカッショニスト・アイーブ・ディエンJB'sメイシオ・パーカーとの共演という異種格闘技を繰り広げています。

Ekstasis / Nicky Skopelitis ('93)

ekstasis
このアルバムも、上記ビル・ラズウェル主宰のAXIOMレーベルよりリリースされたもの。
ギタリスト、ニッキー・スコペリティスジョセフ“ジガブー”モデリストヤキ・リーベツァイトをドラムに、ザキール・フセインサイモン・シャヒーン等非西欧系ミュージシャンをゲストに迎えたサイケデリックサウンド。バシール・アッタールも2曲に参加してます。

Axiom Ambient - Lost In The Translation ('94)

axiom ambient
これもまた、上記のAXIOMレーベルよりリリースされたもの。同レーベルより既発の音源をアンビエントミックスしたトラックをコンパイルした2枚組。
"Apocalypse Across The Sky" 音源からのアンビエントミックスも収録されてます。

Joujouka Black Eyes / The Master Musicians of Joujouka ('95)

Joujouka black eyes
このアルバムは、モロッコ・ジャジューカでの現地録音。ストレートな伝統的演奏です。ベルギーのSub Rosa レーベルよりリリースされたもの。
なぜかこのアルバムにはリーダーであるはずのバシール・アッタールの名前はなく、演奏者も上記のAXIOM盤とはほとんど重複していません。
どうやら、バシール・アッタールのリーダー襲名後、伝統的姿勢を重んじるべしとするMaster Musicians of "Joujouka"と、バシールを筆頭に進取の気勢を取り入れるべしとするMaster Musicians of "Jajouka"との2派閥に分離?してしまっているようですね。

Jajouka Between The Mountains / The Master Musicians of Jajouka feat. Bachir Attar ('95)

jajouka between the mountains
このアルバムは、ピーター・ガブリエル主宰のREALWORLDのサブレーベル、Womad Selectよりリリースされたもの。
イギリスのREALWORLD STUDIOで録音され、敏腕プロデューサー/エンジニアであるチャド・ブレイクの手により、実に精緻なミックスが施されています。

Moroccan Trance II - Sufi - ('95)

sufis
ベルギーのSub Rosaレーベルよりリリースされた、モロッコ音楽のコンピレーションアルバム。
The Master Musicians of Joujouka と、Gnoua Brotherhood of Marrakesh の演奏を収録。

10% File Under Burroughs ('96)

file under burroughs
Sub Rosaレーベルよりリリースされた、ビート・ジェネレーションへの2枚組トリビュート・アルバム
"CD1 : BEATS"ではBomb The Bass, Scanner, Material, Divinationらがダンスミュージック世代からのオマージュとして曲を提供、"CD2 : BEAT"では当時のビート世代の面々(バロウズ、ポール・ボウルズ、ブライオン・ガイシン等)の様々なパフォーマンスが収録されています。
そこにはThe Master Musicians of Joujoukaの演奏も含まれており、Joujoukaの演奏をバックにしたマリアンヌ・フェイスフルのポエトリー・リーディングなんて激レアなトラックも。

Master Musicians of Jajouka featuring Bachir Attar / Talvin Singh ('00)

talvin singh
UKエイジアンのタブラ演奏者/DJであるタルヴィン・シンがバシール・アッタール率いるMaster Musicians of Jajouka と共演を果たしたアルバム。この作品、邦題として「邪呪歌(じゃじゅか)というタイトルがついてましたね(笑)

The Cell : Music from The Original Soundtracks ('00)

the cell
ジェニファー・ロペス主演のサイコSFサスペンス(?)、「The Cell」のサウンドトラックはハワード・ショアが担当。バシール・アッタール率いるMaster Musicians of Jajoukaをフィーチャーし、ロンドン交響楽団との共演という空前絶後の音楽を作り上げています。

Boujeloud / The Master Musicians of Joujouka ('06)

boujeloud

ベルギー、Sub Rosaレーベルよりのリリース。96年から98年にかけて、Boujeloudと呼ばれる牧羊神を祀る伝統儀礼での演奏を録音したもの。
侘び寂びをも感じさせるような、飄々とした演奏。


Live Vol.1 / The Master Musicians of Jajouka with Bachir Attar ('08)

Live Vol.1
こちらは、バシール・アッタール率いるMaster Musicians of Jajoukaによる、2007年リスボンでのライブ公演の模様を収録したアルバム。
大勢の観客を狂熱に叩き込むべく、トランス感あふれる力強い演奏。
The Master Musicians of Jajouka自身の自主レーベルよりのリリース。
Vol.1と銘打っているということは、Vol.2以降も期待できるのでしょうか。
MP3音源もリリース)

The Source / The Master Musicians of Jajouka led by Bachir Attar ('11)

The Source
こちらも、バシール・アッタール率いるMaster Musicians of Jajoukaによるアルバム。
バシールの自宅での録音。
伝統儀礼音楽としてのジャジューカに原点回帰したような、100%ストレートなジャジューカ音楽。
MP3音源もリリース)

The Road To Jajouka / Various Artists ('13)

The Road To Jajouka
こちらのアルバムは、ジャジューカ音楽へのトリビュート作
Medeski Martin & WoodMarc RibotMickey HartDJ LogicJohn ZornOrnette ColemanBill Laswell等、錚々たる顔ぶれがジャジューカ音楽をモチーフとした楽曲を提供。数曲ではバシール・アッタール自身も参加して競演しています。
MP3音源もリリース)
目下のところは、以上でしょうか。
この、「4000年の歴史を持つロックンロール(by ウィリアム・バロウズ)」とも言われる音楽を、今後も聴き続けることができることを願いつつ. . . .

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