MURAKAMI MOVIES

村上龍村上春樹といえば、海外でも人気の高い、現代日本文学を代表する作家と言っても過言ではないでしょう。
人気があるだけに、映像化の機会も少なからずあるわけで(特に龍氏は自ら監督を手がけたりもしていますし)、それらを網羅してみることにしましょうか。
◆ まずは村上龍自身による監督作から。

限りなく透明に近いブルー ('79)

the pipes of pan at jajouka
村上龍氏のデビュー作芥川賞受賞作である「限りなく透明に近いブルー」を、村上氏自ら監督を手がけ、映画化。この作品が、三田村邦彦のデビュー作でもあります。
この作品のサントラは、当時の人気ミュージシャンである山下達郎井上陽水カルメン・マキ等がフォーク・ロック系の洋楽をカバーするという異色の企画盤でもあります。
何年か前にCD復刻されていたはずですが、それもすでに希少盤になってしまってるようですね。

だいじょうぶマイフレンド ('83)

こちらも村上龍原案・原作による、「老いたるスーパーマン」ゴンジー・トロイメライ(演じるはピーター・フォンダ)の引き起こす騒動を描いたSFファンタジー。
この作品のサントラには、加藤和彦坂本龍一といった豪華メンバーが参加してます。
これがデビュー作になる広田レオナがボーカルをとっている曲もあり、今となっては微笑ましいですね。

ラッフルズホテル ('89)

この作品は、村上龍監督作ではあるものの、企画の発端は奥山和由プロデューサーによるもの。フィリピンの高級リゾートホテル、ラッフルズホテルの改装による休業期間中の撮影許可を獲得できたことが発端だったらしいです。
脚本の第1稿も、(奥山氏のアイデアを受けて)脚本家の野沢尚が書いたもの。
村上氏は、自分が監督するに当たってその野沢脚本を改稿。
(野沢脚本と村上脚本を併録した「シナリオ ラッフルズホテル」という本も公開当時、文庫本で刊行されていたのですが、今はもう絶版のようです)
現在、小説版として刊行されている「ラッフルズホテル 」は映画がほぼ完成した後に書かれた、映画のノヴェライズ版というべきもの。
これを「原作」と称して刊行するのはどうかと思いますねぇ。ベースのストーリーを書いた野沢氏への献辞の類も一切なかったですし。
この映画のサントラは、小笠原寛が全体の劇伴音楽を作成。他に、Kuwata Band やイスラエルの歌姫Ofra Hazaの曲を使っていましたが、サントラ盤としてアルバム化はされなかったようです。

トパーズ -TOKYO DECADENCE- ('92)

topaz
SMホテトル嬢のリアルを赤裸々に描いた問題作トパーズを村上氏が自ら映画化。 島田雅彦草間彌生加納典明らが出演していたことも話題になりました。
この作品には、坂本龍一も楽曲を提供、また、キューバのベテランバンド Los Van Vanの曲も使われています。 (使用曲 "ジェゲ・ジェゲ" は後に村上氏自身が設立したレーベルMurakami'sよりリリースされた "Los Van Van 1974 "に収録。)

キョウコ ('96)

Kyoko
この作品は、生み出されるまでにちょっと複雑な経緯がありますね。原作と見なすべき小説作品も複数あり、どれを「原作」と呼ぶべきかハッキリしないところもあるので、順を追って見ていきましょう。
最初に発表されたのは、CDブックシボネイ −遥かなるキューバ−(1991)。
小説家である「わたし」が、キューバに滞在している若きストリッパーの体験(のごくアウトライン)の告白を聞く、という分量的には短編程度の小説。日本人パーカッショニスト、Yas-Kazのオリジナル音源CDが付属していました。

その後、文芸誌「すばる」誌上で上記短編作の続編というべき長編「キョウコ」を連載。
ただし、これは現在刊行されている長編「キョウコ」とはまったく別物で、単行本化もされておらず、雑誌掲載のみの幻の作品。主人公である作家「わたし」の視点から、滞在中のキューバの様々な事物についての描写などがあり、村上龍自身がキューバをどう見ていたのか、という点で興味深いところもあるのですが。

この雑誌連載自体が、映画化を前提としたものだったのかもしれません。
オリジナルな企画のみ、よりも、「小説の映画化」というかたちを取った方が企画が通りやすい、という事情はままあるようですので。
前作「トパーズ」に主演した二階堂ミホをキョウコ役に決めて、彼女にキューバンダンスのレッスンなども受けさせていたそうなのですが、二階堂嬢は突如降板。その後、度々主演女優募集のオーディション開催の告知が「すばる」誌上に載っていたりもし、(この頃の経験が、小説「オーディション」に活かされているのでしょうね)女子高生が「キョウコ」役に決定、なんて情報が掲載されていたこともあったのですが、それも実現しなかったらしく。

それと並行して、村上龍はキューバ音楽へ強く傾倒し、現地の人気バンドNG La Bandaを招聘したり、彼らのアルバムをプロデュースしたりもしています。
それが高じて、Murakami'sレーベルというCDレーベルを立ち上げ、上記 NG La Bandaを初め、キューバ音楽のCDを多数リリースしました。
ちなみに、Murakami'sレーベルよりリリースされたアルバムは以下の通り。

No Hace Falta Pensar En La Muerto, Porque Yo Estoy A Tu Lado
(君はもう死ぬことなど考える必要はない、なぜなら僕が傍にいるからだ)/ Paulo y Su Elite
You Don't Know What Love Is(恋はいつも未知なもの) / Xiomara Laugart
NG La Banda Live In Japan / NG La Banda
La Bruja(魔女) / NG La Banda
"The Man "Who Called "Tosco"(トスコと呼ばれる男) / Jose Luis Cortes
Los Van Van 1974 / Los Van Van
Cuban Rock Spirit / NG La Banda
Cuban House Music / NG La Banda
Tony Cala Sings Benny More / Tony Cala
Cuban Canzone / Estrellas De Cuba
「KYOKO」Original Soundtrack / Various Artists
Historia De Un Amor(或る恋の物語) / Javier Olmo
The Best of Los Van Van - Gentle & Sexy-
NG La Banda Best

また、レーベル設立以前に作られた、
Nueva Generacion / NG La Banda
Cabaret Panoramico / NG La Banda
の2作も村上氏によるプロデュース作。相当な数ですね。
さらに、上記Murakami'sレーベルが休止した後も、村上氏は毎年キューバのバンドを招聘してライブイベントを行ったりもしており、村上龍事務所からのインディーズ作として
Metallic Velvet / Orchesta Bamboleo (2005)
Di Que Piensas(言ってよ、何考えてるの?) / Tania Pantoja (2007)
Piano De Solar / Lazaro Valdes (2007)
Cuban Metro / Various Remix (2008)
Bolero For Delia(デリアのためのボレロ)/ Lazaro Valdes (2009)
Besame Mucho(ベサメ・ムーチョ) / Tania Pantoja with Lazaro Valdes & Feliciano Arango (2009)
Amapola(アマポーラ) / Tania Pantoja & Vannia Borges (2010)
Como Fue -恋はいつも突然に- / Tania Pantoja with Lazaro Valdes, Feliciano Arango & Yulien Oviedo (2011)
Bolero On Cambria カンブリア宮殿エンディング曲集 / Various Artists (2011)
をリリース。「キューバ音楽伝道師」としての村上龍の活動は未だに続いているようです。

話を戻して映画「KYOKO」の企画は、その後、主演が高岡早紀に決定し、ほぼ全編を占めるアメリカロケについては辣腕プロデューサー、ロジャー・コーマンが仕切ることとなり、ようやく撮影開始。映画が完成し、公開されたのは96年。
現在刊行されている小説版は、映画完成後に新規に書き下ろされたもので、原作と呼ぶよりはノヴェライズと言った方が正しいかもしれません。
その映画「KYOKO」のサントラも、やはり村上龍自身のプロデュースによる、キューバのトップミュージシャン達の演奏による(「ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ」のブームに先んじて)古いタイプのエレガントなキューバ音楽を多用しており、その点ではもうちょっと評価されてもよかったのでは?とも思います。

◆ ここからは、村上龍の手になる原作小説を、他の監督が映画化した作品について。

ラブ&ポップ ('98)

Love&Pop
エヴァンゲリオンで一世を風靡した庵野秀明監督が、等身大の女子高生の生活(援助交際も含む)を描いた「ラブ&ポップ」を実写で映画化。とは言え、全編ビデオ撮影による、変則的かつ奇抜な作りの映画になってます。
ドラマ「トリック」などでブレイクする前の仲間由紀恵が主人公の友人役で出演し、ビキニ姿など披露してますね(笑)
この作品の音楽は光宗信吉が担当。サントラ盤には、クラシックの定番曲「ジムノペディ」や「アイネ・クライネ・ナハト・ムジーク」等の他、主演の三輪明日美が歌うあの素晴しい愛をもう一度も収録されてます。

オーディション ('00)

Audition
DEAD OR ALIVE」シリーズから「妖怪大戦争」「スキヤキ・ウェスタン ジャンゴ」まで、早撮り・多作・過激を持って鳴り、海外でも評価の高い鬼才・三池崇史監督が、サイコスリラー「オーディション」を映画化。前半のラブストーリー的展開から一転するラストの暴力描写は(三池監督らしく)壮絶なもの。
ちなみにこの作品、米Time誌の選ぶTop 25 Horror Movies邦画から唯一ランクインしています。
音楽は、三池監督作には常連の遠藤浩二が担当していますが、サントラ盤は出ていないようですね。

走れ!イチロー ('01)

走れ!イチロー
連作短編集走れ!タカハシを原作にした、大森一樹監督の作品。
原作では高橋慶彦をモチーフにしていた部分をイチローにすげ替えるという荒技(笑)を経て、神戸を舞台にしたハートウォーミングコメディとして映画化。
音楽は山下康介が担当、主題歌「Stay with me」を河村隆一が歌ってました。

最後の家族 ('01)

no image
これは、厳密には映画ではなくTVドラマですが、村上龍作品の映像化ということで挙げておきます。
援助交際引きこもりリストラ不倫といった現代の「家族」が抱える問題を織り込んだ作品「最後の家族」を、村上龍自身による脚本、小田切正明演出で全9回のドラマ化。
樋口可南子赤井英和吉沢悠松浦亜弥というオールスターキャストで、重い内容ながらしっかりとした作りの作品でした。
DVD化はされていないようですが、H. Gardenによるサントラ盤はリリースされてます。
主題歌「IN MY LIFE」を古内東子が唄い、中川晃教の「I say good-bye」 が挿入歌として使われてました。

昭和歌謡大全集 ('03)

昭和歌謡大全集
過激と評された問題作昭和歌謡大全集」を篠原哲雄監督が映画化。「オタク系青年」対「おばさん」の死力を賭けた壮絶バトル、という狂った題材を、かなり原作に忠実に映画化してます。
松田龍平池内博之安藤政信樋口可南子岸本加世子細川ふみえ鈴木砂羽といった絶妙なキャスティングもナイス。古田新太原田芳雄市川実和子もオイシい脇役で引き締めてます。
劇中の音楽として、「恋の季節」「チャンチキおけさ」「錆びたナイフ」「骨まで愛して」「君といつまでも」「また逢う日まで」等、昭和歌謡の名曲を多数使用。サントラ盤は出ていないようです。

69 Sixty-Nine ('04)

69 Sixty-Nine
70年安保で騒然とした長崎・佐世保を舞台に高校生の弾けた青春を描く、村上龍自身の自伝的要素が強く出た作品69宮藤官九郎脚本李相日監督妻夫木聡安藤政信主演で映画化。
当時の雰囲気を再現する、というよりも、いつの時代も変わらない若さ、熱さ、勢いといったものの方がメインかも?(監督、脚本とも全共闘世代とはほど遠い年齢ですし)。
音楽は、中シゲヲ&The Surf Coasters Project藤原いくろう鎌田ジョージが担当。サントラには、69年当時の歌謡曲やアニメソングも収録され、雰囲気を出してます。
他にも、今後の予定として、コインロッカー・ベイビーズのハリウッド映画化企画や、「半島を出よを韓国のクァク・キョンテク監督が映画化予定、という情報もあり、要注目です。

※追記※
パリ、テキサス 」や「ベルリン・天使の詩 」等のヴィム・ヴェンダース監督がイン ザ・ミソスープを映画化、という情報があります。意外な組み合わせですが、どんな作品になるのか楽しみです。

◆ 続いて、海外でも非常に評価が高く、最近ではノーベル文学賞まで期待(?)されている村上春樹
氏の作品の映像化作、というのはそんなに多くない(作者自身が映像化に積極的でない、という話もある)のですが、それでも何本か、映画化されたものもあります。

風の歌を聴け ('81)

風の歌を聴け
村上春樹の作家デビュー作を、同郷の神戸出身である大森一樹が映画化。
小林薫真行寺君枝巻上公一というキャスティングには賛否両論あるでしょうが、まだ当時は皆さん若かったので(笑)、大学生という設定にそれほど違和感はありません。ジェイズ・バーのマスター、ジェイ役に坂田明というのは「ちょっと違う」ような気もしますけど。
音楽は千野秀一が担当。当時、サントラ盤(LP)はあったのでしょうか? 少なくとも、CD復刻等はされていません。

パン屋襲撃 ('82) / 100%の女の子 ('83)

100%の女の子&パン屋襲撃
ビリィ・ザ・キッドの新しい夜明け」や「時の香り 〜リメンバー・ミー〜」等の山川直人監督が、16ミリのインディペンデントな短編映画として、村上氏の短編2作『パン』(糸井重里との共著「夢で会いましょう」所収)、『四月のある晴れた朝に100パーセントの女の子に出会うことについて』(「カンガルー日和」所収)を映像化しています。
キャストに室井滋趙方豪が起用され(室井滋と山川監督は、大学時代の映画サークルの同窓だったらしい)、他のスタッフの中にも、後に「2/デュオ」や「M/OTHER」を手がける諏訪敦彦、「発狂する唇」「血を吸う宇宙」の佐々木浩久の名前が見受けられ、感慨深いものがあります。
「100%の女の子」には、挿入曲として佐野元春の「君をさがしてる(朝が来るまで)」が使われています。 こんなインディーズ短編作が、2本カップリングでDVD化されているのは快挙、と言っていいでしょうね。

森の向う側 ('88)

村上氏の「中国行きのスロウ・ボート」所収の短編『土の中の彼女の小さな犬』を、「真夏の少年」「二人日和」等の野村恵一監督が長編映画化。きたやまおさむ一色彩子が主演。
シーズンオフのリゾートホテルで出会った男女の、会話による心理ゲームというストーリーをかなり忠実に映像化しています。
音楽は、ピアニストの金久万利子が担当。リストの「マゼッパ(超絶技巧練習曲)」も使われていたと記憶してます。
公開後にVHSソフトはリリースされていたのですが、DVD化はされていないようです。

トニー滝谷 ('05)

トニー滝谷
レキシントンの幽霊」所収の短編『トニー滝谷』を、「つぐみ」「病院で死ぬということ」「大阪物語」等の市川準監督イッセー尾形宮沢りえ主演で映画化。
主人公の大学生時代までイッセー尾形が演じているのはちょっと無理があるような気もしますが(笑)、村上春樹的な淡々とした透明感・空気感をうまく映像にすくい取っているように思います。
音楽は坂本龍一が担当。サントラは、公開後iTunesのみでリリースされていましたが、2007年12月にようやくCDがリリース。

神の子どもたちはみな踊る ('07)

神の子どもたちはみな踊る
短編集「神の子どもたちはみな踊る 」所収の表題作『神の子どもたちはみな踊る』を、舞台をロサンゼルスに置き換え、アメリカで映画化。
日本の小説が海外で翻案されて映画化されるのは、小川洋子原作のフランス映画「薬指の標本」の例もありますが、珍しいのは間違いないでしょうね。
監督は、これが初監督作となるロバート・ログバル。ジョアン・チェン(「天と地 」や「ツイン・ピークス」に出演してたのも懐かしいですね)や、ナスターシャ・キンスキーの娘であるソニア・キンスキーが出演してます。
実はこの作品、製作は2007年だったにも関わらず、2010年の日本公開が、初の一般公開でもあるようです(要するに、米本国ではお蔵入り状態だったわけですね)。内容については、そこからも推して知るべし、というところなのでしょうか……。

ノルウェイの森 ('10)

Norwegian Wood
大ベストセラー作「ノルウェイの森」が、ついに映画化。
監督・脚本は、ベトナム出身フランス在住のトラン・アン・ユン監督(「青いパパイヤの香り 」「夏至 」等)。
出演は松山ケンイチ菊地凛子、水原希子。
サウンドトラックレディオヘッドのギタリスト、ジョニー・グリーンウッドが担当。 オーケストラや弦楽器による室内楽を用いて、静謐かつ哀切な楽曲を作り上げています。
また、CANの曲も挿入歌として3曲が収録されています。

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