Directors As Musician

映画と音楽は切っても切れないもの。
ミュージシャンが映画監督に進出する、というのは日本では桑田佳祐小田和正辻仁成などの例もありますが、海外ではあまり見かけませんね。
一方、映画監督がミュージシャンとしても活躍している、という例は海外でも色々とありますので、それらを紹介してみましょう。

チャーリー・チャップリン Charlie Chaplin

映画史に残る喜劇王・チャップリンは、監督作の音楽も自ら手がけていました。ただし、チャップリン自身は楽譜の読み書きはできなかったので、駆け出し時代に独学で学んだピアノやチェロ、バイオリンなどをつま弾いたり、口ずさんだりしたものを、専属のアレンジャーが採譜していたそうですが。
(左:チャップリンの映画音楽

ヴィンセント・ギャロ Vincent Gallo

元々は主に役者として活躍していた人ですが、「バッファロー'66」('98)で監督デビュー。その後「ブラウン・バニー」('03)でも監督を手がけてますが、いずれのサントラもギャロ自身が楽曲を作ってます。
(2001年にはL'Arc〜en〜Cielの「Anemone」のプロモビデオの演出もやってますね。)
また、70年代後半から80年代前半にかけてインディー映画に提供していた楽曲を集めたアルバム「RECORDING OF MUSIC FOR FILM 」や、ミュージシャンとしての純然たるソロ作When 」もCDリリースされてます。

マイク・フィギス Mike Figgis

監督作としては「リービング・ラスベガス」('95)が有名ですが(この作品もサントラはフィギス自身の作)、その他にも、自作のほとんど(「ワン・ナイト・スタンド」('97)「セクシャル・イノセンス」('99)「コールド・クリーク 過去を持つ家」('03)等)でサントラも手がけています。
調べてみると、このフィギス氏はロンドンで音楽を学び、"Gas Board"というR&Bバンドでブライアン・フェリーのサイドマンの経験もあったそうで、音楽は半ば本業だったのかもしれません。

エミール・クストリツァ Emir Kusturica

旧ユーゴスラヴィア出身で、「パパは、出張中!」「アンダーグラウンド」で2度のカンヌ・パルムドールを受賞したベテラン監督ですが、この人にはもう一つの顔……バンド"No Smoking Orchestra"のギタリスト、という顔があります。
この バンドはジプシー・バルカン音楽とロックンロールがミックスされた実に個性的なごった煮音楽をやっているのですが(クストリツァ監督の息子がドラマーをやってたりもする)、近作「黒猫・白猫」や「ライフ・イズ・ミラクル」ではこのNo Smoking Orchestraがサントラを手がけています。
また、No Smoking Orchestraのツアー・ドキュメンタリー映画「SUPER 8 」をクストリツァ監督が自ら手がけていたり、映画監督業とバンド活動は渾然一体となってしまってるようですね。
(初期の作品「ジプシーのとき 」「アリゾナ・ドリーム」「アンダーグラウンド」では監督と同郷のユーゴ・サラエボ出身のゴラン・ブレゴビッチがサントラを手がけており、これらもバルカン・ジプシー音楽をベースにモダン・アレンジを施した秀逸な音楽です)

トニー・ガトリフ Tony Gatlif

Kyoko
アルジェリア出身、ジプシーとアルジェリア人の間に生まれたガトリフ監督ですが、このガトリフ氏も音楽については一家言持つ人のようです。
ラッチョ・ドローム」ではインドから中近東・東欧をへてスペインに繋がるジプシー音楽を一望し、「ベンゴ」ではフラメンコとモロッコ音楽の相互の影響を見出し、「僕のスウィング」ではマヌーシュ・スウィングを採り上げ、「愛より強い旅」ではパリからアルジェへの旅路に合わせてテクノ・フラメンコ・ライ・スーフィー等を縦横無尽に取り入れ、「トランシルヴァニア」ではルーマニア・トランシルヴァニア地方(ロマ人の文化が古くより根付いている)の伝統音楽を用いています。
そして、そのいずれのサントラでも、伝統音楽をそのまま用いるだけではなく、独自のアレンジを施したり、オリジナルの楽曲を新たに作ったり、とガトリフ監督のコンポーザー/プロデューサー的な処理を通した音楽が作られていて、実に刺激的なサントラになっています。

デヴィッド・リンチ David Lynch

Love&Pop
ツイン・ピークス」の大ヒットもありながら、きわめて独自な作風を貫くデヴィッド・リンチ監督。
氏の作品は、アンジェロ・バダラメンティの音楽と切っても切れないような印象もありますが(「ブルー・ベルベット」「ツイン・ピークス」「ワイルド・アット・ハート」「「ロスト・ハイウェイ」「ストレイト・ストーリー」「マルホランド・ドライブ」でバダラメンティが音楽担当)、それ以前の「イレイザーヘッド」ではリンチ自身が音楽を制作してます。
また、バダラメンティが音楽を担当している作品でも、リンチは「サウンド・デザイン」という肩書きで、効果音以上・音楽未満、というような「音」を大量に作り込んで作中に組み込んでいたりします。目下最新作の「インランド・エンパイア」(この作品は音楽もデヴィッド・リンチが担当している)でも、そんなスタイルが露わになっています。
一方、リンチは映画音楽以外でも、ジュリー・クルーズジョスリン・モンゴメリーといった女性シンガーのプロデュースを手がけていたり、ロック調のオリジナルアルバム「Blue Bob」やポーランドのピアニストとの共演作「Polish Night Music」などもリリースし、マルチアーティストとしての異才ぶりを発揮。
ついには、2011年リリースの「Good Day Today / I Know」とそれに続くフルアルバム「Crazy Clown Time」でソロミュージシャンとしても本格的に活動開始。リンチはどこへ行くのでしょうか。

クリント・イーストウッド Clint Eastwood

Audition
押しも押されもせぬハリウッドスターであり、近年監督としての評価も非常に高いクリント・イーストウッド氏は、自作のサントラの作曲をいくつかの作品(「ミスティック・リバー」「ミリオンダラー・ベイビー」「父親たちの星条旗」「チェンジリング」等)で手がけています。(硫黄島からの手紙」や「グラン・トリノ」では、息子であるカイル・イーストウッドがサントラを手がけていますが。)
また、ジェームズ・C・ストラウス監督の「さよなら。いつかわかること」では、音楽のみをクリント・イーストウッドが担当。作曲家としてもそれだけ信頼されるに至った、ということでしょうか。

青山真治 Shinji Aoyama

日本では、青山真治監督が自作サントラのために自ら音楽を制作していますね(全ての作品ではありませんが)。「HELPLESS」「ユリイカ」「シェイディー・グローヴ」等でギター系のサウンドを披露してます。
青山氏は高校時代にはロックバンドを結成していたそうで、その頃の経験が生きているのでしょうか。
他にも探せば見つかりそうな気もしますが、「こんな人もいる!」という情報があればお寄せください。

inserted by FC2 system