Bill Laswell & AXIOM Label (part.1)

AXIOM Book
BILL LASWELL
NY在住の鬼才ベーシスト/プロデューサー/音楽クリエーター として一部に熱狂的なファンも持つ人物です。
このLASWELL氏が主宰するレーベル、AXIOM もまた多様かつ一筋縄でいかない音楽をラインナップし、注目を集めていました。
90年代半ば頃には、そのラインナップの一部を国内レコード会社が国内盤としてリリースしており、そのプロモーションのために、Bill LaswellとAXIOMレーベルを紹介するフリーペーパーが作られ、CDショップ店頭で配布されたりもしていました(左画像はその表紙)。
このフリーペーパーの内容は、多岐にわたるBill Laswellの活動や経歴を一望できる秀逸なものだったので、そのコンテンツをこの場に再現してみることにしましょう。

The Story of AXIOM & Bill Laswell

Illuminationトレンドや売れ筋ばかりを気にする音楽業界では、いったん売れると分かったジャンルは骨の髄までシャブられて、そのうち時代遅れの烙印を押され、お払い箱にされる。本当に創造的なアーティストや作品などは、商業活動の妨げ以外の何ものでもないのだ。

そんな業界の退廃と絶えず戦ってきた男が、ビル・ラズウェルである。彼が関わった全ての作品は、熱心なファンや辛辣な批評家たちを、あるときは驚喜させ、またあるときは激怒させてきた。
彼は音楽のためならどんな非常識だってやる。
1983年、ジャマイカのミュージシャン、イエローマンのもとにドラム・マシーンを持ち込んだのも彼なら、パンク・ロックの権化である元セックス・ピストルズのジョン・ライドンを、ヒップホップの創始者の一人、アフリカ・バンバータと組ませてアルバムを制作したのも彼。
非西欧世界のアーティストがラズウェル色に染まるのを危惧したイギリスの批評家グレアム・ロックは「お願いだからユッスー・ンドゥールのそばに近づかないでくれ」と彼に手紙を書いたという逸話もある。
そのラディカルな創造意欲のゆえに、ビル・ラズウェルは一部の批評家から、病的と言ってもいいくらいに嫌われているのだ。

しかし、もし'80年代初頭に、彼が飽くなき音楽的探求を行わなかったとしたら、今日、テクノやアンビエント、ワールド・ミュージックなどというものがこれほどまでに普及していただろうか。
彼は、現存するジャンル、国境、文化のカベを突き破ろうとする独創的で大胆な発想を、創作のベースに置いている。そして彼が'89年に創設した新レーベル、AXIOMから発信されるサウンドは、'90年代後半、ひいては21世紀の音楽シーンの行方をも変えてしまう危険な導火線なのである。

THE ROOTS

ビル・ラズウェルは1955年2月12日、アメリカはイリノイ州のシカゴに生まれた。
10代後半にギターを弾き始めた彼だが、すぐにエレキ・ベースに転向。ハイスクールのR&Bバンドで鳴らした彼は、10代も半ばにもなると、当時シーンを賑わしていたソウルやファンクをカバーするバンドの一員として、中西部、南部の劇場やナイトクラブを回る。
彼の故郷はソウルやR&Bにとって非常に豊かな土壌であった。ファンカデリックオハイオ・プレイヤーズブーツィー&キャットフィッシュ・コリンズ兄弟……。当然のように、ラズウェルもそれらの大きな影響を受けて成長したのだ。特にアンサンブルやグルーブの作り方、あるいはブルースやカントリーといったアメリカ的な要素をどうフュージョンさせていくかといったことを学んだという。
その一方で、オーネット・コールマンジョン・コルトレーンアルバート・アイラーファラオ・サンダースといったジャズ界の前衛ミュージシャンの音楽にも感化され、芸術的な表現とは一体何か?といったことをも考えるようになっていた。
やがて、彼は'60年代末期からのロックシーンの台頭にも出くわす。彼の地では、イギー・ポップ&ザ・ストゥージスが火つけ役だったが、ラズウェルは、その後に出てきたMC5に強い関心を持っていた。彼自身もライブの現場に身を置いていたため、ラズウェルは毎晩2〜3組のこうした新興バンドを目の当たりにすることが出来たのだ。
後にラズウェルが、アフリカ・バンバータ、ファンカデリックのマイケル・ハンプトンらとカバーしたMC5の "Kick Out The Jam" を聴けば、いかに彼がそうしたソウルやロックを、自分のなかで同等に消化していたかが窺えるだろう。
'70年代後半になって、彼はニューヨークに出てくる。当時、そこではアドリブを中心とした前衛的なジャズやロックを演奏するプレイヤーが山ほどいた。ラズウェルは彼らと交流しながら、この世界にのめり込んでいく。できるだけ多くのレコーディング・セッションや、ライブ・ギグに出かけ、経験を積み、アイデアを試し、金をかせいだ。そうしたギグの一つにデヴィッド・アレンや、プログレッシブ・ロックのゴングとの共演もあった。 またヘンリー・スレッギルビリー・バン、ボーダーレスな活躍で日本とも縁の深い作曲家兼サックス奏者、ジョン・ゾーンらと知り合ったのも、ジョン・ケージシュトックハウゼンといった現代音楽家の仕事に興味を抱き始めたのも、この頃のことである。

マテリアル

そして現在まで15年近く、ラズウェルにとってライブ活動やレコード制作の中心となってきたグループ、マテリアルが結成された。
その舞台となったのはジョルジオ・ゴメルスキーが経営する実験的なロフトハウス。'78年にマイケル・バインホーン、フレッド・メイハーと結成した時にはズー・バンドという名前のトリオだったが、翌年マテリアルに改名。ソニー・シャーロックフレッド・フリス、ヘンリー・スレッギル、オル・ダラ、ビリー・バン、ニッキー・スコペリティスといった冒険心に富んだミュージシャンたちが次々に参加した。現在ではメンバーは固定されておらず、ラズウェルが自分のやりたいことを最高のメンバーで実現するときのバンド名、とでも言えばよいだろうか。
Hallucinationマテリアル名義の作品としては "Temporary Music (1979-1981)" に始まって、'94年1月に発売された最新作 "Hallucination Engine" までがある。
1981年、ラズウェルは、ブライアン・イーノデヴィッド・バーンのアルバム "My Life in the Bush of Ghosts" に参加。このアルバムは、アフリカやイスラム音楽をコラージュしたサウンドで当時のロック界に衝撃を巻き起こした傑作だが、ラズウェルにとっても大きな刺激となったことは、現在のAXIOMの諸作を聴けば容易に窺える。
その他にもラズウェルは、カーリューやジョン・ゾーン、ゴールデン・パロミノスキップ・ハンラハン等、多種多彩なアーティスト達と、無数のセッションをこなした。自身のバンドとしても、マサカー(+フレッド・フリス、フレッド・メイハー)、デッドライン(+フィリップ・ウィルソン他)を作り、マテリアルと並行して活動した。'80年代前半にマテリアルがクラブ・ギグを行う際は、しばしばマサカーやデッドラインのセットも、同時に披露した。

ROCKIT

Futureshock1983年、ハービー・ハンコックの大ヒット・アルバム "Future Shock" をプロデュースしたことが、その後のラズウェルのキャリアに一大変革をもたらす。
このアルバムには、これまで彼がやってきた実験が全て投入された。テクノ・ビートとスクラッチ・ノイズが大胆にフィーチャーされたシングル "Rockit" は、MTVや各国のヒットチャートを席捲、まだまだ普通の音楽ファンにはなじみのなかった<ヒップ・ホップ>という言葉を大衆のレヴェルにまで知らしめた。また、タイトル曲の "Future Shock" は、カーティス・メイフィールドのカバーだが、シンセサイザーとサンプリングによってでも、肉感的なファンクネスを保つことができることを証明した。

WORLDへのアプローチ

ブルースやカントリーといったアメリカ固有の音楽に、若い頃から親しんでいたラズウェルは、世界中のさまざまな文化のもとで生まれた音楽、すなわち現在ワールド・ミュージックと呼ばれているような音楽を受け入れることに何の抵抗もなかった。
他の浅はかなアーティストが、自分の音楽にエキゾチックな雰囲気を与えるためだけに、非西欧世界からゲスト・アーティストを呼び寄せたりしていた頃、彼は既に世界中の巨匠たちとネットワークを持ち、彼らとの共同作業の中から、多くを吸収していた。
Ancient Heartそうした成果のいくつかが、AXIOMからリリースされている。例えば、かつてオーネット・コールマンやローリング・ストーンズのブライアン・ジョーンズとの共演でも話題になったジャジューカの "Apocalypse Across the Sky" 、ガンビアの伝統音楽を演奏するマンディンカ・グループやフラニ・グループの "Ancient Heart" 、マラケシュのグナワ・ミュージックを収めた "Night Spirit Masters" ……。
それらは、彼らが昔からそうしてきたように野外で演奏してもらい、プレイヤー全員にマイクをセットしてデジタル・マルチ・レコーダーで録音したものを、最先端のスタジオでミックス・ダウン。その場の広がりと奥行きは保ちながらも、各々の音のセパレーションは完璧に仕上げた。その昔、2トラックのテレコで行われていたような野外録音からは隔世の感がある。
また、異なるいくつかのジャンルの音楽を結びつけるといったことも、ラズウェルのお家芸と言えるだろう。彼はこうしたレコーディング作業において、どこの国のミュージシャンに対しても庇護者的な態度を取ることはなく、誰とでも対等な関係を維持してきた。こちらの例としては、マテリアルの最新作 "Hallucination Engine" を聴けば納得していただけるだろう。ラズウェルはモロッコのトランス・ミュージックの伝統的スタイルに、最新のテクノロジーと多彩なミュージシャンを掛け合わせることで、電化され、組織化された現代版トランスミュージックを作りだしている。
Sound-System同じく、 "Future Shock" に続く'84年のハンコックのアルバム "Sound-System" でも、ラズウェルは、インダストリアル・ロックやテクノ的な音世界に、ピュアなアフロ・サウンドを溶け込ませようと、セネガルからトーキング・ドラムの名手アイーブ・ディエン、キューバからコンガのダニエル・ポンセ、そしてガンビアの伝統を今に伝えるコラのプレイヤー、フォディ・ムサ・スソらを招いた。さらにハンコックと付き合いの長いサックス奏者ウェイン・ショーターまでも加え、一見異質に見える要素を見事なまでに有機的に結合。グラミー賞を受賞する傑作を生み出した。

PRODUCER ラズウェル

ハンコックの2作のおかげで、ラズウェルは当代髄一の売れっ子プロデューサーとなった。
そのハンコックやジェフ・ベックスライ&ロビーを動員して制作したミック・ジャガー初のソロアルバム、ローリー・アンダーソンや、オノ・ヨーコの作品、ピーター・ガブリエルがユッスー・ンドゥールと初共演した曲 "In Your Eyes" のリミックス、バリバリのロックの分野ではイギー・ポップ、モーターヘッドザ・スワンズホワイト・ゾンビブラインド・イディオット・ゴッドラモーンズ……
Album詳しくは巻末付録のディスコグラフィーを参照していただくとして(引用者注・巻末ディスコグラフィーはこのサイトに採録はしていません)、この時期、最も意義深かった仕事としてはPILのアルバム、その名も "ALBUM" を挙げないわけにはいかないだろう。なにしろドラムにジンジャー・ベイカートニー・ウィリアムス、ギターにスティーヴ・ヴァイとニッキー・スコペリティス、ベースにアート・アンサンブル・オブ・シカゴのマラカイ・フェイヴァースとラズウェル本人、キーボードに坂本龍一バーニー・ウォーレル、さらにシャンカールのエレクトリック・ヴァイオリン、バーナード・ファウラーのバック・ボーカルという超強力メンバーが一気に勢ぞろいしたのである。
特に元クリームのジンジャー・ベイカーは、過去ナイジェリアのファンク・マスター、フェラ・クティと共演していたことなどから、後のラズウェルの仕事にも多大な示唆を与えた。彼らのコラボレーションの成果は、米AXIOMのジンジャー・ベイカー作 "Middle Passage" で聴くことができる。

裏ラズウェル

Last Exitその一方で、ラズウェルの非メインストリーム音楽への挑戦も頂点を迎えようとしていた。
アグレッシヴで野心的、あけすけにラディカルな音楽を作るため、ソニー・シャーロック、ペーター・ブロッツマンロナルド・シャノン・ジャクソンといったフリージャズのミュージシャンらと、ラスト・イグジットを結成。バンドとしてのライヴ活動、レコード・リリースも活発だが、並行して、ラズウェルは各メンバーとのコラボレーションや、それぞれのソロ作のプロデュースもさかんに行っている。
そしてさらに音楽における“攻撃性”を重視した試みとして、ラズウェルはジョン・ゾーンとナパーム・デスのドラマー、ミック・ハリスとのトリオ、ペインキラーも結成。吐き気を催しそうな過激な演奏で、ハードコアなファンを狂喜させている。

P. FUNK

まったく、'80年代にラズウェルが作り上げたネットワークの広さには、ただただ驚くしかない。 史上最大のファンク軍団、P. FUNKの面々も、次々とラズウェルとのコラボレーションを開始した。
まず付き合いが始まったのは、トーキング・ヘッズのライヴ映画“STOP MAKING SENSE”等での活躍も有名な天才キーボーディスト、バーニー・ウォーレル。彼をきっかけにマイケル・ハンプトン、ゲイリー“マッドボーン”クーパーらとの親交も深まった。
そして現在まで、最も頻繁に付き合っているのが、天才ベーシストにして、ブーツィーズ・ラバー・バンドの首領、ブーツィー・コリンズである。ラズウェルが86年にプロデュースしたマヌ・ディバンゴの "Makossa '87" 、スライ&ロビーの第2作 "Rhythm Killers" に参加してもらったのを始めとして、坂本龍一のアルバム "NEO GEO" を通じて二人の仲はは急接近。ついにはブーツィー自身のソロ作 "What's Bootsy Doin'?" の中の曲をラズウェルがプロデュース、その後、ラズウェルが仕切るプロジェクトの多くにブーツィーの音は欠かせないものになっている。
The Third PowerマテリアルがAXIOMに移籍して最初に発表した'91年のアルバム "The Third Power" は、もともとスライ&ロビー名義の第3作目になるはずだったものだが、この中でP. FUNKの面々が勢ぞろい、ファンカデリック時代の名曲 "Cosmic Slop" を再演している。嬉しいことに、ホーン隊にJB'sの中核としても有名なホーニー・ホーンズこと、メイシオ・パーカーフレッド・ウェズリーアルフレッド・ピーウィー・エリスまで入っているのだから、徹底している。
そして、アフリカ・バンバータのアルバム "The Light" では、遂にP. FUNKの総帥、ジョージ・クリントンとも初めて接触、'93年に発表されたクリントンの最新作 "Hey Man... Smell My Finger" の中の1曲 "Maximumisness" でも、ラズウェルがプロデュースを担当している。
'94年、AXIOMは、これらP. FUNK軍団とラズウェルのコラボレーションの究極ともいえるアルバム "Funk Project" を発表する。これには、'92年の暮れに惜しくも亡くなったギタリスト、エディ・ヘイゼルが参加した最後のレコーディングも含まれるとのことである。

詩人達

Night Spirit Mastersラズウェルはまた、詩人たちに対しても強い憧れを持っている。
まず、'50年代のアメリカのビートニクス。当時の彼らが、麻薬を求めてモロッコへ旅立ったことも、モロッコ音楽に強い関心を寄せるラズウェルには通ずるものがあるのだろう。ベルナルド・ベルトルッチ監督によって映画化もされた「シェルタリング・スカイ」の原作者ポール・ボウルズは、AXIOMのアルバム "Night Spirit Masters" へライナーノーツを寄せているし、ジャジューカのアルバムを "Apocalypse Across The Sky" と命名したのは、映画界や音楽界との交流が盛んになってきたビートニク中のビートニク、ウィリアム・バロウズである。
それどころか、バロウズはマテリアルの'89年作 "Seven Souls" 、'94年の "Hallucination Engine" のレコーディングにも参加している。バロウズがローリー・アンダーソンのアルバムに招かれた'85年頃、彼は単に詩を朗読していただけだったが、'94年のバロウズは本職ラッパー顔負けのライムをビートに乗せていて、実にクール。
Be Bop or Be Deadまた、'60年代のマルコムXや、ブラックパンサーの政治活動に刺激を受けて形成されたハーレムの黒人詩人グループ、ラスト・ポエッツのメンバーともラズウェルは交流を保っており、 "Oh My People" といったアルバムや、ジャラルディン・ヌリディンとD. STのコラボレーションによる12インチをプロデュースしてきた。
ここ数年、ラスト・ポエッツの初期メンバー、ウマー・ビン・ハッサンにご執心のラズウェルは、日本のPヴァインからラスト・ポエッツ名義で "Holy Terror" を、AXIOMからウマーのリーダー作として "Be Bop or Be Dead" と2枚のアルバムを次々とリリース。後者ではブーツィーやバーニー、バディ・マイルスをフィーチャーして、ラスト・ポエッツの名曲 "Niggers Are Scared Of Revolution" "This Is Madness" 等をリメイクしている。

日本

Neo Geo日本のアーティストとのコラボレーションも忘れてはならない。既に来日も40回を越える彼は、数十のプロジェクトに参加してきた。日本の音楽ファンには、一緒に活動したアーティストの名前を挙げるだけで十分であろう。
坂本龍一坂田明山下洋輔近藤等則高橋悠治山木秀夫仙波清彦渡辺香津美一噌幸弘富樫春生スターリン灰野敬二菊地雅章巻上公一三宅榛名梅津和時高橋鮎生ボアダムズS.O.Bのメンバー、画家の大竹伸郎……。
ラズウェルがアジアでだけ組んでいるバンドもある。そのひとつMOOKOは、坂田明、シャノン・ジャクソンとのコラボレーション、もうひとつはSXLで、韓国のサムルノリ、アイーブ・ディエン、シャノン・ジャクソン、シャンカールからなっている。

AXIOM

'80年代、ビル・ラズウェルはセルロイド・レーベルをベースに数々の音楽実験を繰り返し、その後、OAO、エネミー、テラピン、ヴァージン傘下のヴェンチャー、ネイション、また、セルロイドの後継レーベルとしてのサブハーモニック等々、信じられないほど数多くのレーベルを任されたり、運営したりしてきた。
Manifestation'89年、アイランド・レコードの創立者クリス・ブラックウェルの熱烈な支持のもとに、自分と協力者たちのヴィジョン、つまり作品を発表する場としてAXIOMが設立された。
AXIOMは何者にも縛られない、最もピュアな形での音楽性追求を旗印に、アーティストには完全な自由を保証し、クオリティの高い音楽のみを扱う。
AXIOMに登場するアーティストは、これまでに紹介してきたビル・ラズウェルの全ての方向性から選ばれた才能あふれる人たちである。そして、非西欧世界のミュージシャンたちのピュアなサウンドもリリースすれば、従来では考えられないような異ジャンルのアーティストたちとのコラボレーションも送りだす。はるかな距離と境界を股にかけ、いやそれらを無視して、途方もない音楽的エネルギーを各々のCDに凝縮する、それがAXIOMなのである。
Blues In The Eastさて1994年のAXIOMだが、P. FUNKの項で述べた "FUNK PROJECT" の他に、中国歌手リュウ・ソラデビューアルバムが計画されている。これにはジャズ、ファンク、R&B系の一流ミュージシャンが参加する他、アジアの伝統楽器を取り入れ、古典音楽と世俗音楽の両面において東西文化のラディカルな融合を作りだそうという目論見だ。また、ラズウェルとオーネット・コールマン、そしてウィリアム・バロウズという究極のビートニク・トリオによる作品も待機している。

残念ながら、この小冊子をもってしても、ビル・ラズウェルがこれまでにやってきた仕事のほんの一部しか紹介できていない。彼は既に200点以上の作品を世に送りだしてきたのだ。そして、この先、AXIOMからどんな作品をどれだけ発信することになるのか、おそらく彼自身にも答えられないことだろう。ウィリアム・バロウズは、自身が考え出した境界のない世界をINTERZONEと名付けた。そして、ラズウェルはそのINTERZONEの音楽的実現を、このAXIOMで果たそうとしているのだ。

 NOTHING IS TRUE, EVERYTHING IS PERMITTED.

以下は、AXIOMの作品ラインナップを紹介していきます(各紹介文もフリーペーパーに掲載されていたもの)。

Night Spirit Masters / Gnawa Music of Marrakesh ('90)

Night Spirit Mastersモロッコのマラケシュでデジタル録音されたトランス・ミュージック。太鼓ダルブッカの音が、驚異の迫力で響きわたる。

Ancient Heart / Mndinka and Fulani Music of The Gambia ('90)

Ancient Heart伝統楽器コラやバラフォンを使うマンディンカと、ヴァイオリンのような楽器ニャネール主体のフラニ、両グループのアンサンブル。

Middle Passage / Ginger Baker ('90)

Middle Passage元クリームの伝説的ドラマーが長年研究、咀嚼してきた西アフリカのリズムを、現地ミュージシャンと共に爆発させる。

Soul Searcher / Shankar ('90)

Soul SearcherP. ガブリエルとの共演でも有名なインドのヴァイオリン奏者シャンカールが古典を現代に甦らせる。妻キャロラインの歌も。

New World Power / Mandingo ('90)

Mandingoガンビアのグリオ、フォディ・ムサ・スソの率いるマンディンゴ。
西アフリカの伝統音楽を、現代的テクノにフュージョン。

The Music of Mohamed Abdel Wahab / Simon Shaheen ('90)

The Music of Mohamed Abdel Wahab'91年に没したアラブ音楽の大作曲家、モハメッド・アブドゥル=ワハーブの名曲を、シャヒーンのウードとヴァイオリンで。

Red Warrior / Ronald Shannon Jackson ('90)

Red Warriorかつてオーネット・コールマンのもとで鳴らしたドラマー、シャノン・ジャクソンが、3ギター、2ベースと繰り出すメタル・ジャズ

The Word / Jonas Hellborg ('91)

The WordEx. マハビシュヌのベース+トニー・ウィリアムス+弦楽四重奏団。アコースティックながらロックな仕上がり。

Ask The Ages / Sonny Sharrock ('91)

Ask The Agesマイルス"Jack Johnson" への参加も有名なギタリスト。ファラオ・サンダース、エルヴィン・ジョーンズらと激しくジャズる。

Illuminations - AXIOM Collection - ('91)

Illumination上記AXIOMアーティストのコンピレーション。初期AXIOMを手っとり早く知るには便利な1枚。

The Third Power / Material ('91)

The Third PowerマテリアルがAXIOMに移籍して初めて制作した'91年作で、"Hallucination Engine" の前作にあたる。
スライ&ロビー名義の作品となるはずだったこのアルバム、さすがにレゲエ色も強く、今をときめくシャバ・ランクスの参加や、ボブ・マーリーのカヴァーも。
また、ラスト・ポエッツの'70年代初頭作のリメイクや、P. FUNKとの "Cosmic Slop" の再演もあり、先人へのリスペクトを感じさせる。

(このアルバムよりのシングルカット「Reality : with Bill Laswell & Sly Dunber Remixes 」もリリース)

Bahia Black / Ritual Beating System ('92)

Bahia Blackブラジルの中でも最もアフリカ的な地域、バイーア
ポール・サイモンとの共演でも知られるバイーア最大のパーカッション軍団オロドゥンの天国ビートに乗って、バイーア最新のアグレッシヴなグループ "TIMBALADA" のカリーニョス・ブラウン、そしてショーター、ハンコックといったジャズ・グレイツたちがせめぎ合う。
お上品なボサノヴァなんか目じゃないぜ! 熱い血がブラジルだ!

Apocalypse Across The Sky / The Master Musicians of Jajouka featuring Bachir Attar ('92)

Apocalypse Across The Skyかつてローリング・ストーンズのブライアン・ジョーンズとも共演した、モロッコのジャジューカを最新、最高の録音で。

The Dark Fire / Talip Ozkan ('92)

The Dark Fireトルコの弦楽器サズと、豊かなヴォーカルを操るタリップ・オズカンが、トルコの伝統音楽の様々なスタイルを披露。

Praxis / Transmutation (Mutatis Mutandis) ('92)

Praxis日本の特撮ヒーロー物「ジャイアント・ロボ」をこよなく愛する謎のギタリストバケツ頭P. FUNKの重鎮2名、リンボーマニアックスのドラム、ジャングル・ブラザーズのDJという未来派野郎たちが生み出すのは、前衛ファンクともファンク・メタルとも呼ばれる過激な音。
ブーツィーのクールなヴォーカルの背後でうねりまくるバケットヘッドの変態ギタープレイは超絶、いや悶絶?

Too Much Sugar For A Dime / Henry Threadgill ('93)

Too Much Sugar for A Dimeスレッギルは、ラズウェル同様シカゴ生まれのマルチ・リード奏者。
'93年、ニューヨークの「ぴあ」、"Village Voice"誌のジャズ・チャートで2位に輝いたこの作品では、弦ベースの代わりにチューバを配して、ネッチリとしたグルーヴを構築。モンク、コールマンばりの屈折フレーズを、ストリングスや怪しげな女性ヴォーカルを交えて劇奏!
本人のアルトも、文字どおりバリバリ鳴っている!

Manifestation - AXIOM Collection II - ('93)

Manifestation'92〜'93年の作品からピックアップ。しかし収録曲の半分以上がアルバムとはミックスが違うので、AXIOMクレイジーは要注意。

Ekstasis / Nicky Skopelitis ('93)

Ekstasisギタリスト、スコペリティスが、ミーターズジョセフ "ジガブー" モデリストや、カンヤーキ・リーベツァイトをドラムに迎えて、メタリックなグルーヴを放射するかと思えば、非西欧世界のミュージシャン達とのリラックスしたセッションも。

Be Bop Or Be Dead / Umar Bin Hassan ('93)

Be Bop or Be Deadラスト・ポエッツの初期メンバー、ウマーが長年の沈黙を破って、吠える!
ジャネット・ジャクソン主演、ジョン・シングルトン監督の映画「ポエティック・ジャスティス」でもフィーチャーされているラスト・ポエッツの名曲 "Niggers Are Scared Of Revolution" のリメイクは、ジミヘンのドラマー、バディ・マイルスのぶっといグルーブも手伝って、怒髪天をつく仕上がり。革命を恐れるな!

Material / Hallucination Engine ('94)

Hallucination Engine15年に及ぶラズウェル入魂のプロジェクト、マテリアルの最新作は、アンビエント/ジャズ/ファンク/ダブを徹底的に融合させ、さらに中東、西アフリカ、インド、中国と、世界のあらゆる地域のエッセンスも凝縮した究極のコンフュージョン・アルバム
中でもウィリアム・バロウズをアシッド・ジャズさせてしまった収録曲 "Words Of Advice" は全ビートニクへの遺言だ!

(このアルバムよりのシングルカット「Mantra : with Bill Laswell & Orb Remixes 」もリリース)

Blues In The East / Sola ('94)

Blues in the eastマテリアルの "Hallucination Engine" にも参加していた歌手リュウ・ソラのデビュー・アルバム。
ソラのいかにも中国的な発声に、自身のアルバム以上に力のこもったウマーのライムが絡む。彩るのは中国の琵琶ピーパや、日本の尺八、加えて背後を支配するアンビエントなグルーヴ……
まるで映画「ブレードランナーをイメージさせる音楽コラージュ。タイトルどおりブルージーなテイストも十分。

Funkcronomicon - AXIOM Funk - ('95)

AXIOM Funkラズウェルは子供のときからファンクにまみれてきた男である。
このアルバムは、そんな彼のファンク人生の総決算
P. FUNK、オハイオ・プレイヤーズの中心人物たちが一堂に会して贈る、'94年型大ファンク絵巻
中でも、故エディ・ヘイゼルの参加した2曲は、全ファンカティアが落涙することは必至。

フリーペーパーに掲載されていたアルバムは以上なのですが、AXIOMのラインナップはこれで全てではありません。
94年以降も、AXIOMはディープかつジャンル横断的な多様な作品を生み出していきますが、それは次回へ続く、ということで……


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